冬がやってくる

学位を取得した春の1ヶ月を無職で過ごした野良博士が研究員のお仕事を頂いて1年半が過ぎ、秋を迎えた。そんなノラは与えてもらった2つのテーマを、たまに失敗しながらも少しずつ進めた。飼い主の不在となる夜には学位論文のデータを引っ張り出し、こねくり回し、論文を1つ投稿した。数回、古巣に戻って不足データを収集するなどして、それは無事に採択された。学位論文からあと数報は投稿したいと思いながら、本業が忙しく、着手できないままでいた。

日々研究に勤しみながら、ノラは採用情報を気にした。自分の分野に合う公募を見つけ、数回アプライし、書類で敗れた。最近、ようやく2次のプレゼンに漕ぎ着けた。その公募はパーマネントで、裏情報から公平な公募と知り、ノラは張り切った。プレゼンの前後、子を授かった2組の夫婦宅を訪ねた。住む土地を決めてそこで生きる覚悟を持つことがいかに大事かを、2組とも説いた。それが人としてあるべき姿であると、2組とも同じように語った。そしてノラは惨敗した。

ノラは気分を切り替えて研究に専念した。一つのテーマは根本的な仮説からコケそうになっていたが、もう一つのテーマは手ごたえを感じていた。そんな最近の共同研究者との打ち合わせは明るい。行く先で結果を出せなければ次はない。なんとしても春までには仕上げると、ノラは決心した。もうすぐ冬がやってくる。